同じ英語の文でも、「耳からでは理解できくなくても、目で読むと理解できた」という経験ありませんか?
多くの学習者が直面するこのリスニングの壁。それには主に2つ原因があります。
1つは、スピードの問題です。
自身の英語を聞き取る速度が十分でないと、それより速い場合聞き取れないという問題が発生します。
これには、音読やシャドーイングといった学習が有効です。この学習で意識的に対応できる英語の速度を上げて行くと良いでしょう。
2つ目は、音の変化の問題です。
日本語は書かれた文字を基本的にはちゃんと発音していきますよね。もちろん早口になると少し変わることもあります。しかし、それは誰もが直ぐに分かる「ありがとうございます。」等の言葉や表現が多いです。
しかし英語では、至る所でその変化が起こっています。そのため、はっきりと単語を分けて言った場合とでは、異なるものに聞こえます。
それに対応するには、どのような音の変化があるのかを理解し実践的に練習する必要があります。
今回の記事では、そういった「英語の音の変化」を知ることができる本を3冊紹介します。
海外在住経験9年、英語講師として約20年の経験を持つプロの英語講師が、それら「英語の音の変化を知るために役立つ本」3冊を徹底評価します!
今回の記事で紹介する本は、下記の要件を満たすものを選んでいます。
1.2020年~2022年に出版されたものである
2.音の変化に特化した本であるか、または章がある
3.筆者が実際に書店で手に取り、興味を持ったものである
※1について、それ以前に出版されたものに加筆修正し、新たに出版されたものも含まれます。
評価は、下記の4つのポイントをそれぞれ5点満点で採点しました。
①分かりやすさ
②値段
③内容
④総合点
今までも多くの英語の本を評価してきました。
今回もこれらの評価に加え、それぞれの本のプラス点を3点、マイナス点を2点記載しています。
そして、今回もお伝えしておきます。これらの評価やコメントは全て個人の感想です。学習者によって異なることは予めご理解いただければと思います。 では早速1冊目の本について見ていきましょう!
英語の音の変化を知るために役立つ本①:魔法のリスニング 英語の耳づくりルール120
分かりやすさ:★★★☆☆
値段:★★★★☆
内容:★★★☆☆
総合点:★★★☆☆
1冊目は2022年2月に出版された「新装版 魔法のリスニング」です。199ページあり、定価は1,200円+税です。
ピンクの表紙に魔女のイラストがこの本。書店で「読みやすそう」という印象を持ち、手に取った1冊でした。
中も文字が大きく読みやすくなっています。また音の変化の部分は赤字で分かり易く記載されています。少し気楽に音の変化を勉強したいという方には特におすすめです。
英語の本は、書かれている内容だけでなく「続けられる」ことも重要です。英語が苦手な学習者や初心者は、「読みやすい」「続けられそう」と感じられる本を選びましょう。
そういった意味で、この本はそれを満たしていると思います。
それでは「魔法のリスニング」のプラスな点とマイナスな点を見てみましょう!
プラスな点①:例文が充実している
1つ目のプラスな点は、音だけでなく例文があるという点です。
英語の音の変化を理解するには、文中でどのような変化が起こるかを知ることも重要。
例えば英単語を覚える際に、単語とその意味を理解することは大切ですよね。
さらに文の中での使い方を確認すると、実際に使うイメージを得ることができます。
また、例文で確認することで、品詞の確認ができます。同じような意味を持つ単語が他にもあった場合でも、「このような内容で使うことができる」と確認が可能です可能です。
音の変化にも同じようなことが言えます。
例えば、この本の最初に取り上げている音の変化は、must have beenです。これをmuhstabin(マスタビン)と紹介しています。
もちろんこれだけでも、どのように言うのかイメージできます。しかし、実際の会話で言ったり、聞いたりする際には、must have beenだけで登場することはなく、文で使われますよね。
よって、音の変化に関しても、最初はどのように言うのか、または聞こえるのか確認しましょう。その後、さらに文中ではどのようになるか確認することはとても大切です。
こういった例文が4つから5つ収録されており、もちろん音声でも確認できることはこの本の良い点と言えます。
プラスな点②:音の復習ができる
2つ目のプラスな点は、覚えた音の変化を会話文で復習ができるという点です。
この本には、合計で120の音の変化のルールが8つのユニットに分かれて紹介されています。
それぞれの音の変化のルールには、必ず例文が含まれています。また、各ユニットの最後にExerciseという会話文があります。
これらの会話には空欄があり、各ユニットで取り上げた全ての音の変化が入るようになっています。
会話文の音声を聞いて、実際に練習してきた音を認識できるか確認することができます。そのため、本当にそのルールを理解できているかチェックすることが可能です。
また、この会話文を使って音読練習が行えます。学習者自身が声に出して学習した音を言えるようにすることもできるのです。
リスニング力を上げるためにはスピーキング練習は欠かせません。それができる仕組みになっている部分はこの本の良い点として挙げられます。
プラスな点③: なぜその音の変化があるかが分かる
3つ目は、「なぜ」や「どのように」などの、理由や方法が分かるという点です。
大人になれば、理屈が分からないと腑に落ちないということがありますよね。
例えば先ほどのmust have been。単に「muhstabin(マスタビン)と言うのですよ」と言われても、「分かりました」とはならないと思います。
この本では、それぞれの音の変化に対して「リスニングのマジック」という解説があります。どうしてその音になるのか、どのように発音すべきかといったことが書かれています。
これを読むことで、学習者は納得してその音を真似することができます。また、別の単語組み合わせで生じる同じような変化にも応用することができます。
特に音の変化に関しては、この別の単語の組み合わせにも応用できることが大切。なぜなら、この音の変化のルールは、英語を使う上で繰り返し起こっているからです。全ての例を本に書くことはできませんものね。
こういったポイントを簡潔にまとめている点も、この本の優れている点と言えます。 ここまでは、プラスな点について書いてきました。では、次はマイナスと思った点を2つ見てみましょう。
マイナスな点①:砕けた音の変化が含まれる
1つ目のマイナスな点は、音の変化には、砕けた印象を与えるものが多くある点です。
例えばyouをya(ヤ)としています。確かにそのように言う人もいます。しかし、これをいきなりビジネスの場で使うべきではありません。馴れ馴れしいと感じてしまう人も少なくないでしょう。
また、接客業でWill ya…のように言った場合、これもかなり砕けて聞こえます。人によっては失礼だと感じてしまう可能性も。 このように注意が必要な音の変化に関しては、単純にどのように音が変化すると伝えるだけでなく、使い方に関する注意点も記載しておくと良いのではないかと思いました。
マイナスな点②:基本的な音の変化のルールの解説がない
2つ目のマイナスな点は、基本的な音の変化のルールの説明がないという点です。
良い点で、個々の単語やその組み合わせの音の変化に対する理由が説明されていると書きました。実際にそれを読むことで、音の変化理解することができる仕組みになっています。
しかし、その前にあるべき説明がありません。それは、英語の基本的な英語の音の変化(脱落や連結等)に関するルール。
こういったルールを理解することが大切。そのルールに、今回取り上げているような120個の音の変化をあてはめると、よく理解できます。
そういった基本的なルールを最初に簡潔にまとめてあげることで、学習者には更に効果的な教材になるのではないかと感じました。
英語の音の変化を知るために役立つ本②:絶対英語の耳になる!リスニング50のルール
分かりやすさ:★★★★☆
値段:★★★☆☆
内容:★★★★☆
総合点:★★★★☆
2冊目の音の変化を知るために役立つ教材は、2022年4月に出版された「絶対英語の耳になる」です。ページ数は213で、価格は1,800円+税となっています。
この本を選んだ理由は、著者の長尾和夫氏の本を何冊も読んだことがあるため。そして、音の変化に関する例が多く掲載されているのに、説明が読みやすいと感じたからでした。
それでは早速この本のプラスな点を確認してみましょう。
プラスな点①:使用頻度が高いものが多い
リスニングルールを、50個紹介している本です。「フレーズの発音変化」(43個)と「単語の発音変化」(7個)に分かれています。
これらの全てのルールは、実際に本当に会話で耳にする発音の変化ばかり。その点がとても素晴らしいです。
この本の大部分にあたるのが「フレーズの発音変化」です。前置詞、代名詞や助動詞といった機能語を取り上げています。そして、それらの音がどのように変化するかを紹介しています。
これらの機能語の音の変化を知ることで、英語の音の変化の多く知ることができるでしょう。
よって、これらの変化を多く紹介している点は、この本の良い点と言えます。
プラスな点②:豊富なフレーズと例文がある
この本の2つ目のプラスな点は、取り上げるフレーズと例文の多さです。
例えばcanとcouldのルールについて。
最初にcanとcouldを使ったフレーズを紹介しています。can he, can’t he, could you, could he, could theyといった感じ。それらの単語といくつかの異なる単語の組み合わせを取り上げながら、どのように音が変化するか紹介しています。
それだけでも複数の異なるパターンを確認することができます。しかしこの本の素晴らしい点は、それらのフレーズを使った例文を多く載せていることです。それによって、読者は理解度を深められますね。
フレーズが1つだと、「じゃあ、この単語との組み合わせの場合はどうなのかな?」と思ってしまいますが、それを最初からある程度見せている点が良いですよね。
プラスな点③:単語の発音変化は厳選されている
3つ目のプラスな点は、7つある単語の発音変化がかなり厳選されているという点です。
厳選されている分、かなり実用的な内容になっています。
例えば、「centralのルール」というものがあります。これは単にcentralをどう説明するという話ではありません。
trの発音は、「トラ」ではなく、「チュラ」のようになることを説明しています。それによりcentralは「セントラル」から「センチュラル」になると見せています。
そのtrの音の変化を認識することで、trainやentranceといった他の単語でもその音が出せるようになります。
このように、1つの単語を取り上げつつ、大切な英語の発音のルールを見せています。
もちろん、いくつか例を出して、ダウンロードした音声で確認することが可能です。
ではこの本のマイナスな点はどのような部分でしょうか。2つ見てみましょう。
マイナスな点①:カジュアルな音の説明が不足している
日本語には敬語があり、それによって相手に与える印象が変わりますよね。
英語では単語や表現の選択、どのような表現で話すかによりその丁寧さを変えられます。
この本では、そういったカジュアルな印象を与える音の変化も紹介しています。しかしそれについては特に言及はされていません。
例えば、英語でよく使うI’m going toを「ゴナ・ガナ」と紹介しています。実際にこのように発音する人達はとても多く、自然な英語と言えます。
しかし、同時に使う場面やタイミングによっては砕けた印象を与えます。
例えば疑問文で使った場合、「~してもいいっすか?」のように聞こえる可能性もあります。
こういった音の変化を伝えるのであれば、注意点も加えると良いように感じます。
マイナスな点②:カタカナの読み方が変なものがある
2つ目のマイナスな点は、発音の方法が書かれているカタカナが変なことがあるという点です。
全ての英語をカタカナで正確に書くことは不可能です。そしてもちろんそれは著者も読者も理解しているでしょう。
しかし、あまりにも違うように聞こえるものがあるのです。それはもう少し精度を上げられたのではないかと感じてしまいました。
例えばwon’t beですが、カタカナでは「ウォウビ」とありました。
しかし、それであれば「ウォンビー」の方が正確です。「ウォウビ」では、ネイティブにはwill beと誤解される可能性があります。
読者のことを考えてカタカナで書いていることは理解しています。しかしこういった誤解が生じる可能性が高い書き方がいくつもありました。そこはマイナスな点として挙げさせていただきました。
英語の音の変化を知るために役立つ本③:英語リスニングの鬼100則
分かりやすさ:★★★☆☆
値段:★★★★☆
内容:★★★★☆
総合点:★★★★☆
最後の1冊は、2020年7月に出版された「英語リスニングの鬼100則」です。この本は、435ページあり、価格は2,100円+税となっています。
この本はタイトルから分かる通り、英語のリスニング全般に関連する本です。よって、その中でも特に音の変化に関連性が高い2つの章を今回の評価の対象としました。
ちなみにこの本は、別の「鬼100則」シリーズを他の記事で評価したので選びました。
今回は評価対象外ですが、この1冊では、なぜ英語を聞き取れないのかも学習できます。また、英語の母音と子音とはどのようなものか、イントネーションや文強勢、そして世界中にある英語のなまり等も学習することができます。
リスニング、そしてリスニングに関連性が極めて高いスピーキング。スピーキングを一からしっかりと学びたいという方には、とてもおすすめの本です。
それではこの本(2つの対象の章)のプラスな点とマイナスな点を見てみましょう。
プラスな点①:イギリス英語とアメリカ英語の違いが分かる
最初に挙げるプラスな点は、よく比較されるこちらです。イギリス英語とアメリカ英語の音の変化の違い。それについて説明されているという点です。
音の変化について説明する本は、基本的にはアメリカ英語が対象。意外に思うかもしれませんが、イギリス英語には触れていないものが多くあります。
しかし、アメリカ英語とイギリス英語では、音の違いが多くあります。それは、お互いが相手の国の英語の発音を冗談で真似するくらい違うのです。
ある意味、関東と関西の訛りの違いに近いようなものがあるかもしれません。
この本ではしっかりとそういった違いについて書いてあります。その点は素晴らしいと感じました。
プラスな点②:細かいポイントの説明がされている
これは学習者のレベルによっては分かり難い(マニアック)ポイントです。リスニングを本気で上げたい、ある程度知識のある学習者にはとてもプラスな点です。
例えば、bagとbackのように似た単語があります。語末の音(gとck)が消えた場合(最後に子音が来て消える等)、その前は両方ともにbaなので、どのように単語を判別するかという疑問が生じると思います。
しかし、このような問題にも、「その前の母音の長さを手がかりに判断する」という説明があります。実際にどういうことか説明がされているのです。
子音が脱落するという現象があることを理解した上で、どのようにbagとbackのような単語を区別することができるのか疑問に思うレベルの学習者であれば、この本に記載されているようなポイントはとてもありがたいと感じるはずです。
プラスな点③:聞こえる⇔話せる
3つ目のプラスな点は、リスニング=スピーキングと学習者に伝えていること。そうなるような練習が含まれている点です。
発音や音の変化のルールを理解した上で、実際に声に出して練習すること。これがリスニングを上げるために効率的な学習方法です。同じ音が出せるのであれば、必ず聞き取ることができます。リスニング力の向上につながるのですね。
この本では、聞いたことを書くディクテーションやPronunciation Practiceという声に出して練習するパートがあります。
聞いて終わりのリスニング教材ではなく、スピーキングも一緒に上げる必要性を一貫して伝えている点が素晴らしい点です。
最後に、どういったマイナスな点があるのか見てみましょう。
マイナスな点①:必ずしも正しいとは言えない例がある
1つ目のマイナスな点は、中には同意が出来ないポイントがあるということです。
例えば、p, t, kの前にsがくると、それらの音の勢いがなくなると説明しています。しかし個人的にその説明は、誤解が生じるものだと思っています。
pinとspinという単語があります。もしティッシュを口の前に持ってpinと発音してみます。pの音で大きくふわっと持ち上がります。spinのようにsの後に来た場合、ティッシュは動かないとあります。
確かに、spinと言った場合にもティッシュが動くということは十分にあります。
むしろその説明をすることで、sの後に来るpの音は聞こえないくらいに言わないといけないのかと誤解をしてしまうことも考えられます。
こういった必ずしも正しいとは言い切れない例がある点はマイナスに思います。
マイナスな点②:一部ポイントがまとまっていない部分がある
2つ目のマイナスな点は、第4章の「音は変化する」の内容です。書いていること自体はためになるものです。第2章では母音、第3章は子音に関連する内容を基に書かれていました。
しかし第4章は、連続する音の中で、英語学習者が「つまずくポイント」として7つ例を挙げています。ただ、それらはかなりランダムな内容になっています。学習者として覚えにくく感じてしまうように思います。
もちろん参考程度に入れているのであれば良いと思います。しかしもう少しまとまったポイントになっていると良かったのではないかと思いました。
まとめ
今回の記事では「英語の音の変化を知るために役立つ本」3冊を紹介しました。
これは毎回ほんの評価記事で書いていますが、これらの評価は筆者の個人的な感想です。
よって、私が平均的な評価をした本でも、学習者にとっては違うかもしれません。人生を変えるような1冊である可能性は十分あります。
この記事で、他の音の変化に関連する本にも興味を持ってもらえると嬉しいです。皆さんの学習に少しでも役立てていただけると嬉しいです。